173.網膜③:糖尿病を学びましょう
来月は糖尿病網膜症の予定ですが、今月は糖尿病について学びたいと思います。糖尿病の治療薬の進歩は目覚ましいものがあります。薬だけでなく、生活習慣の指導も進歩しています。今回は私自身の学び直しもあります。皆さん、どうぞお付き合いください。
1)糖尿病とは?
WHOの定義では「インスリン作用の不足に基づく慢性の高血糖状態を主徴とする代謝疾患群」です。やや古い資料になりますが、厚労省のホームページでは、平成9年の調査で糖尿病が強く疑われる人は690万人、可能性のある人(予備軍)を含めると1370万人と推定されます。
私たちはブドウ糖をエネルギー源として利用しています。血中のブドウ糖濃度は膵臓から分泌されるインスリンというホルモンの働きで、70-140mg/dlに保たれています。そして余剰のブドウ糖は肝臓や筋肉に蓄えられ、必要な時にエネルギー源として血中に戻ります。
インスリンが膵臓から出なくなる、もしくはインスリンの働きが落ちるとブドウ糖が蓄えられなくなり、血糖値が上がります。
2)1型と2型があります
1型は膵臓のインスリンを作る細胞に炎症が起こり、インスリンができなくなる、もしくは量がたりなくなり血糖値が上がります。原因ははっきりしていませんが、ウイルス感染等が原因となり、自分で自分の細胞を攻撃する「自己免疫」が原因とみられています。
2型はインスリンの分泌が少なくなる、作用が落ちることで引き起こされます。遺伝や生活習慣が関係すると考えられています。
3)糖尿病はなぜ問題になるの?
血糖値が上がると、血管の中をブドウ糖の濃度が濃い血液が流れます。これが血管を傷つけ、まず細い血管(毛細血管)から障害を受けて、色々なな臓器が傷つきます。毛細血管が多い臓器の代表が腎臓、神経、目の網膜で、糖尿病の三大合併症となり、脳梗塞や心筋梗塞も多くなります。この三大合併症の一つ、糖尿病網膜症については来月、お話します。
血糖値が上昇すると、のどが渇く、水を飲みたくなる、多尿、体重減少、倦怠感などの症状が出て病院を受診し、糖尿病が見つかるケースが多いですが、全く自覚症状がなく健康診断で見つかるケースも少なくありません。
4)治療
治療の3本の柱は、食事療法、運動療法、薬物療法です。血糖値のコントロールは、患者さんそれぞれで、なかなかデリケートなものです。また、その時の体調や、生活環境の変化でも影響を受け、変動します。内科の主治医の先生と相談しながらすすめていただきたいと思います。
ここでは、詳しくは述べませんが、
①食事療法
2型の方は、必要なエネルギーと栄養素は確保しつつ、適正な体重管理をするだけで改善する方は大勢います。
②運動療法
筋肉でブドウ糖が利用されるとともにインスリンの働きも良くなります。ウォーキングが推奨されていますが、患者さんの年齢、足腰に痛みはないか、他に身体の病気がないかで変わってくるので、主治医の先生と相談しながら進めましょう。
③薬物療法
これは大きく進歩しました。私も学び直しました。
大きく分ければ、インスリンの注射と内服薬です。
5)薬物療法を詳しく
1)インスリン注射1型はインスリンを作ることができないので、インスリン注射が必要です。2型でも薬物療法で十分な血糖降下を得られない場合は、インスリン注射が必要になります。
食前に速効型のインスリン、それに加えて1日に1回、持効型のインスリンを組み合わせる方法が一般的ですが、これもその時の血糖値やコントロールの状態で、主治医の先生と相談で行います。
インスリン製剤の種類も効き目が出る時間で超即効型、即効型、持続型、これらの混合型とさまざまです。
2)薬物療法
これはもう目覚ましい進歩をとげています。私が医学部を卒業した30年前は3種類くらいでしたが、今は8種類が使われています。詳しく知りたい方は、日本糖尿病学会のホームページをご覧ください。「一般の方へ」というメニューがあり、とても参考になります。
私が医学部を卒業したばかりの頃は、糖尿病神経症の重症で足を切断しなければならない方を見ましたが、今はそうした方を見かけることがなくなりました。それだけ治療が進歩し、患者さんの寿命も延びています。
今回は、この10年ほどに市場に出て大きく治療に貢献している薬を紹介します。これは私の勉強になりました。
DPP-4阻害薬
膵臓に作用するインクレチンというホルモンの分解を抑制し、その作用を助けます。インクレチンは血糖値が高い時はインスリンの分泌を増し、インスリンと逆の作用をするグルカゴンというホルモンを抑制して血糖値を下げます。
GLP-1受動体作動薬
インスリンを分泌する膵臓のβ細胞にあるGPL-1受容体に結合し、インスリンの分泌を増し、グルカゴンを抑制します。
SGLT2阻害薬
腎臓は糸球体という毛細血管の集まりです。ここで血液の老廃物をろ過して尿を作り身体の外に出すとともに、必要な栄養素は再利用されます。
この薬は腎臓でのブドウ糖の再取り込みを抑え、尿のなかにブドウ糖を出して血糖値を下げます。
6)最後に伝えたいこと
今回は、患者さんが多い糖尿病という大きなテーマで、長々と書きましたが、最後に私の伝えたいことを書きます。偏見を持たないこと。
週刊誌やネットの情報で、極端な行動に走らないこと。患者さんの数が多いだけに記事にすると話題になります。ですが、こうした情報には根拠のないものが多くあります。例を挙げれば食事療法です。カロリーコントロールが必要でも、自分の身体を維持し、生活するためには必要な栄養素とカロリーが要ります。主治医の先生と相談で治療を進めてください。
最も伝えたいことは、治療を中断しないこと。糖尿病は、コントロールの良い時、悪い時はあっても、治る病気ではありません。でも、きちんと治療していけば健常な人と同じように過ごすことができます。主治医の先生と二人三脚、治療を続けてください。
来月は糖尿病網膜症がテーマです。
(2024.7.10更新)